2017年7月11日火曜日

村上世彰氏と「生涯投資家」

「生涯投資家」読みました。

村上さんの人となりと、日本の企業のコーポレートガバナンスの不備を理解できるとても良い本でした。


私自身は、投資は実業と投機の間にある概念だと思っています。

投資家は、経営者のパートナーとしては実業家に近く、より高くで事業を転売しようとするのは投機家に近いと考えています。


投資家は事業の経営のことを考えつつ、株価についても考えなければなりません。

村上さんが本の中でも述べているのですが、村上さんは経営者に向いてないと自分でおっしゃられています。確かに、村上さんが手がけた案件は、純資産を無駄に遊ばせている企業を安くで買い、M&Aや、増配や自社株買いを迫ることが多く、今ある事業自体をよりよくするような提案を、あまりしていない印象があります。

もちろん、会社が無駄に資産や現金を死蔵していることは社会にとってもよくありません。これらを有効活用するのは株式会社経営陣に必要なことであり、それができないなら投資家に還元して、投資家自身がよりよい別の会社等に投資することが、社会にとっては有益ですし、大変すばらしいことです。そのような意味で経営を改善してはいると思いますし、有限である社会的資産を適切に分配するという大変重要な役割を果たしたとは思います。


その一方で、株価が上がればどうせ売り抜けるんでしょとか、配当をもらっておさらばでしょといった印象が一般の人には残ってしまったのかなと思っています。投資家というよりは、さや抜きをしている投機家に近いという印象でしょうか。

いざ、プロキシファイトをしようと思ったら、株価が値上がりして、味方になるはずの外資はいなくなってしまったというエピソードがもありました。おそらくですが、村上氏も、株価が上がって純資産に対して割安でなくなっていたら、プロキシファイトなどせず、株を売ってしまっていたのではないでしょうか。


一方で、ソレキアに敵対的TOBを仕掛けた佐々木ベジ氏という方がいます。

佐々木ベジ氏は会社自体をよくすることにこだわっているように感じました。実際のところはわからないですが、ソレキアに関して富士通とTOB合戦したときに、 佐々木ベジ氏は富士通のTOBに応募して、EXITする可能性もありました。村上氏ならTOB合戦の末、富士通のTOBに応募したかもしれません。ベジ氏は、会社自体のオーナーとして、割安というわけではない値段で株を買い、経営や資産の有効活用をすることで企業価値を上げることを選びました。ベジ氏はその意味で投資家というよりも、実業家として経営のパートナーとなることを選んだといえます。(まだ、これからですから、はっきりとはわかりませんが)

どちらも、敵対的TOBを仕掛けましたが、投機家的に見える投資家である村上氏と、実業家的に見える投資家である佐々木ベジ氏に対する印象は、大きく違うのではないでしょうか。投機がダメで、実業が良いといったことは全くありません。少なくとも私自身はどちらも社会に不可欠な重要なものと考えています。

ただ、世間一般で村上さんの印象が大変悪いのも、投機家的投資家に見える村上さんの投資スタイルにあるのではないかと、私自身は思ってしまいました。

上場後のサイバーエージェントの藤田社長が、成長事業に投資したいというのに対して、株主である村上氏が、曖昧なものより自社株買いをするべきだと提案しますが、結局は事業について確信がもてないまま、株価が上がったところで保有株を売却するエピソードがあります。

不遜な言い方かもしれませんが、村上さんが果たしたことは非常に重要ではありましたが、 より良い事業や、より夢のある成長事業にあまり興味がない、徹頭徹尾合理的な村上さんの姿に、一抹の寂しさを感じました。


間違いをしてしまった部分はあったかもしれませんが、株式市場と株式企業をよりよくしようと、人生を捧げた投資家、村上氏に感謝の気持ちを感じています。

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